植物ホルモンのシグナル伝達による植物成長制御機構

植物は発芽、葉・茎・根の分化と伸長、花芽形成、種子形成、という一連の成長を進める過程で、周囲の環境変動に適応しつつ、病害虫とも戦いながら、生活環を進めています。植物研究の世界においても目覚ましい発展を遂げる分子生物学は、遺伝子による植物生活環の制御機構を明らかにしてきましたが、これらの遺伝子・タンパク質の働きと協調的に、化学物質(生理活性化合物、ケミカル)も非常に重要な働きを果たしています。特に、植物においては、植物ホルモンと呼ばれる生理活性化合物が重要な働きがあることが明らかになってきてきており、世界中で精力的に研究が進められています。

この植物ホルモンの一種であるブラシノステロイドは、植物器官分化・器官伸長の促進、環境ストレス耐性の向上、植物自然免疫の制御(植物病害抵抗性の向上)の活性化、を始め、植物成長に関わる多くの生理活性に総じて促進的に関わると共に、葉緑体制御や光合成活性まで広く関わっていることが判ってきています。

私たちは、ブラシノステロイド生合成阻害剤Brzなどを活用するケミカルバイオロジーという研究手法を使って、ブラシノステロイドのシグナル伝達に関わる新規な遺伝子を数多く発見してきています。
シグナル伝達とは、細胞外から刺激や環境変動を受けた時に、その刺激を情報/シグナルとして認識し、細胞内の核へ伝えて遺伝子発現の制御に繋げたり、他の細胞内オルガネラに直接伝えることによってタンパク質の制御を行なう仕組みのことであり、この機構によって、最初に細胞に伝えられた刺激は細胞の隅々まで伝わり、生物の制御が精密に進められることが出来るようになります。
私たちは、ブラシノステロイドのシグナル伝達において重要な働きを示す遺伝子の機能を調べることによって、それらの遺伝子群によるブラシノステロイドのシグナル伝達ネットワーク機構の解明、さらにはシグナル伝達ネットワークによる植物成長や葉緑体制御の分子機構の解明、を目指しています。

関連するプレスリリース:

植物ホルモンのマスター転写因子BIL1/BZR1の特異的な立体構造を解明
http://www.riken.jp/pr/press/2018/20181002_2/

植物細胞の伸長を促進する新しいタンパク質を発見
-植物の葉のサイズ・草丈を制御する技術開発に貢献-
http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170718_2/

タンパク質の「集合と拡散」による植物草丈制御の仕組みを発見
-植物の草丈を自在に制御する技術開発に貢献―
http://www.riken.jp/pr/press/2015/20150207_1/

植物ステロイドホルモンによる葉緑体制御の司令塔「BPG2」を発見
-ケミカルバイオロジー研究で、ブラシノステロイドのシグナリング機構を解明-
http://www.riken.jp/pr/press/2009/20091214/

植物の成長を促進させる新しい因子を世界で初めて発見
– 食糧増産に向けた新しい植物成長制御技術の開発 –
http://www.riken.jp/~/media/riken/pr/press/2002/20020419_1/20020419_1.pdf

(主担当:中野雄司)