植物ホルモン・ブラシノステロイドによる葉緑体制御機構

植物は葉・茎・根の分化と伸長により成長を進めますが、その成長のエネルギー源や成長を支える細胞壁などの細胞成分の生産は、葉緑体の行う光合成反応が担っています。35億年間の生命進化の過程では、この葉緑体によるエネルギー・物質生産と植物器官分化・伸長の両輪によって成長する植物は、食物連鎖の起点となって地球生態系を支えてきた生物種であるという言い方も出来ます。
前項で述べたように、植物ホルモンの一種であるブラシノステロイドは、植物器官成長の制御と共に、植物の葉緑体の分化・発達・機能の制御にも重要な働きを果たしていることが判ってきています。通常、暗所条件で発芽した植物は、もやし様の徒長した形態を示しますが、暗所条件かつブラシノステロイド欠損条件下で発芽した植物は、まるで明所条件下で発芽したかのような形態を示します。この通常条件の子葉では、光合成関連の遺伝子の発現はほぼ検出されませんが、ブラシノステロイド欠損条件下で発芽した植物では、葉緑体のチラコイド膜の発達や、光合成関連遺伝子の発現も認めることが出来ます。このような事実は、ブラシノステロイドが葉緑体の分化・発達・機能に非常に重要な働きを示していることを示唆していると考えられています。
これまでブラシノステロイドによる植物生理機能の制御機構については、植物の成長、環境ストレス耐性、病害抵抗性については、研究が発展し、現在もさらに新しい知見が得られていますが、ブラシノステロイドによる葉緑体制御機構の具体的な分子メカニズムは未解明の部分が非常に多く残されています。
私たちは、この未解明の領域を明らかにするため、ブラシノステロイドのシグナル伝達において葉緑体の分化・発達・制御に関わる新規因子を探索し、その機能解明を進めることによって、ブラシノステロイドによる葉緑体制御の分子メカニズムの解明を目指しています。  

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http://www.riken.jp/pr/press/2009/20091214/

(主担当:中野雄司)